排便のしくみ その2

1. 排便にはたらく自律神経のしくみ

 食べものや飲みものを運ぶ腸管は内臓神経ともよばれる自律神経のはたらきで動いています。自律神経は意図的にはコントロールできない不随意の神経です。自律神経には交感神経と副交感神経というふたつのしくみがあります。排便に関係する交感神経として、下腹神経という名の神経が腸管に枝を伸ばし、副交感神経としては、脳からつながる迷走神経という名の神経と、脊髄の最も尾側の仙髄という部分から出る骨盤神経という名前の神経が枝を伸ばしています。
 下腹神経には、腸管を動かすための指令を伝える神経と腸管がふくらんだときの感じを痛みとして伝える神経が走っています。胃結腸反射や大蠕(ぜん)動のときに指令が伝わって働くとともに、便がたまったときの腸管の拡張や腸管の動きに伴う痛みの情報を脊髄に伝達していると考えられます。排便の前におなかが痛くなったり、大腸にたまった便を直腸のほうに運ぶのはこれらの自律神経のはたらきなのです。
 大腸に便やガスがたまってふくらんでいると、その情報は骨盤神経の枝を通って、中枢である仙髄に伝えられますが、骨盤神経には仙髄から直腸や内肛門括約筋に指令を出す神経経路もあります。直腸肛門反射は、直腸の壁の中にある神経細胞が、便による圧を感じてその信号を中枢である仙髄に送り、仙髄にある細胞が、司令塔となって神経を通じて内肛門括約筋がゆるむような指令を出し、内肛門括約筋はその指令を受けて、ゆるむものです。脳からの指令を必要としないことから反射とよばれます。

2. 排便にはたらく体性神経のしくみ

 排便をがまんするときに肛門を閉める外肛門括約筋のはたらきや、排便するときに腹圧を高めるために腹筋に力を入れるときは、大脳から脊髄を通って分布する体性神経がはたらいています。体性神経には、筋肉を動かすための運動神経と、痛みや触覚などの感覚を伝える感覚神経があります。運動神経は、中枢から末梢にむかって神経細胞の電気信号を伝達し、感覚神経は、末梢で感じた刺激を中枢に電気信号として伝達します。それぞれ遠心性、求心性とも呼ばれますが、これは、自律神経でも、中枢からの末梢の腸管に信号を伝えるものを遠心性、内臓の様子を中枢に伝えるものを求心性と同じように呼ばれます。
 体性神経である陰部神経という神経には、骨格筋を動かす運動神経が外肛門括約筋に枝を伸ばしています。肛門を締めたりゆるめたりできるのは、この運動神経から外肛門括約筋に指令が伝わるためです。また、陰部神経には、排便時の肛門部の感覚を、仙髄を経由して脳の中枢に伝える感覚神経が走っています。排便のときに肛門部に痛みを感じるときは、この陰部神経の経路が使われているのです。

3. 成長と排便のしくみ -受動的な排便から排便の制御へ-

 生まれたばかりの赤ちゃんでも、生まれたときには、排便にかかわる生理的な反射はすでに身につけています。大腸から直腸に便が運ばれ、便がたまると直腸肛門反射が生じて内肛門括約筋がゆるみ、もう一方の括約筋である外肛門括約筋もゆるむと、肛門は完全に開いた状態となり、便が排せつされます。自律神経のはたらきにまかせていれば、便はひとりでに出てゆくのです。いわば、からだのしくみにおまかせの排便、受動的な排便が赤ちゃんの排便です。
 やがて、成長して、外肛門括約筋をしめたりゆるめたりできる年齢になると、大蠕動や直腸肛門反射に応じて便が出ようとすると、外肛門括約筋をしめることなく、ゆるめて排便するようになります。さらに成長してトイレトレーニングが終わるころになると、トイレなどの適切な排便場所にたどり着き、服を脱いで、便器に座るまで外肛門括約筋をしめておき、排便の準備ができると、括約筋を意図的にゆるめ、おなかの筋肉に力を加えて腹圧を高め、排便できるようになります。
 自宅のトイレでも、家の外のトイレでも、排便が自在にできる、そんな社会で認められる排便行動ができるようになるためには、もっと高度な、運動・認知・心理機能が発達することが必要です。こどもの成長にともない、排便の営みは、自律神経による受動的排便から体性神経の働きも加わった意図的な排便へすすみ、さらに排便の制御へと段階的に発達していくのです。

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