「ウンチ」するのはいや! ―便秘のきっかけ―
便秘のきっかけとなるのは、排便の体験がいやな思い出になったときです。ウンチしたとき痛かった、いやだったという思いがあると、こどもたちは、「ウンチ」をもよおしたときに排便をがまんしようとします。生まれたばかりの赤ちゃんでは排便をがまんするための肛門の筋肉、外肛門括約筋を自分でしめることはできませんが、1歳を過ぎると、短い間ですが、括約筋を収縮させて肛門を閉めることができるようになります。
慢性便秘症で紹介されたお子さんで、よく、「ウンチをするときに立ったまま足をクロスして真っ赤な顔をして力を入れています」と話すお母さんがいます。これは、ウンチをがまんしているのです。このときは、肛門括約筋だけではなく、臀部の筋肉や足の筋肉など、幼いながら知恵を総動員して何とかしてウンチが出ないようにしていると思われます。そうやってガマンしていると、こどもたちにとっては「幸い」なことに、便意は遠のきます。ウンチしたくなくなるのです。これは、おとなでもそうですよね。こどもたちは、「しめしめ、ウンチをガマンしているとウンチしなくてもよくなるんだ!」と、考えます。
でも、その考えは「浅はかな」考えです。便意はしばらくは遠のきますが、人間のからだのしくみ、自律神経のしくみはそうはいきません。そのまま便をおなかの中にためておくのはよくないからです。しばらくすると、また腸は大ぜん動を起こし、排便させようと便意をもよおします。ところが、便意が遠のいている間に便はどうなるかというと、腸にはさらに便がたまり、たまっている便の中の水分がさらに吸収され、便はますます硬くなります。こんどの便意はさらに便がたまっているので、前より強力な便意です。便のかたまりは前よりも大きく、硬くなっています。こどもは前回同様「ガマン」しようとします。でも、ウンチを出すからだのしくみはきわめて強力です。何せ、ウンチは体の外に出さないといけないものです。からだには不必要なものです。こどもたちの「ガマンしてやり過ごそう」という思いとはうらはら、ついにウンチは自然の力、つまり自律神経の大きな力によって出ていくのです。
こどもにとっては、そうやってガマンした末に出た「ウンチ」は、今までに経験のない「痛~い」排便かもしれません。ひょっとしたら、大きな便が肛門を通過するときに、おしりが切れて出血するかもしれません。こんな痛い思いをしたこどもは、きっと、「ウンチなんてしたくない」と思うでしょう。おしりの感覚に敏感なこどもはなおさらです。これが、繰り返されると、ウンチはいやなもの、できるだけしたくないもの、という思いが頭にこびりついてしまいます。これが、慢性便秘の始まりです。