こどもが便秘になるわけ
こどもの食事の変化
だれでも、口から食べ物をとることで生きています。成長しているこどもにとって食事はとくにたいせつです。生まれたばかりの赤ちゃんは母乳やミルクしか飲めませんが、数か月たつと離乳食を食べるようになります。やがて断乳がすむと、食事のかたちや内容はおとなたちの食事に近づいていきます。
この間に、授乳や食事の回数は1日10回以上からだんだんと減ってゆき、やがて1日3回とおやつ、というのが一般的になります。食べものの形はというと、はじめは流動物ですが、歯が生え、食べ物を噛むことができるようになると、だんだん軟らかいものから硬いものまで食べられるようになります。食べる力も、はじめは母乳やミルクを吸って、のどに送り込むだけですが、歯、というより歯ぐきでかんで、すりつぶして、細かくしてからのみ込めるようになります。このように、こどもの食べる力に合わせるように離乳期になると離乳食を用意し、成長に合わせてやわらかい食事からだんだんおとなと同じような食事を用意してもなんでも食べられるようになります。
離乳食と便秘
こどもが成長するにつれ、母乳やミルクだけでは栄養が不十分になります。成長に必要な栄養は、離乳食、さらに軟らかい幼児食へとどんどん進めることで十分になります。ところが、このように離乳食からだんだんとおとなが食べるものに近づいてゆく時期に、便秘になるお子さんが増えてきます。どうしてなのでしょうか。
それは、離乳期になると便の量が減るからです。離乳食は軟らかいと言っても母乳やミルクより食事のなかの水分量は減ってきます。また、準備した離乳食や幼児食をなんでも喜んで食べてもらえるといいのですが、この時期からお子さんによっては好ききらいが出てきます。口の中に入れても吐き出してしまう、自分の好きなものしか食べない、といったことがおこります。
また、ちょうどそのころ、1歳半を過ぎるころから、いわゆる「いやいや」期もはじまり、好ききらいと相まって、いわゆる「食べむら」もあらわれます。食べる日、食べるときはたくさんたべるのに、食べない日は、今まで食べているものでも食べない。遊びに夢中で、食べることはそっちのけということもあるかもしれません。
食べものと便の量、便の硬さ
離乳食がはじまり、食事を幼児用のものにすすめていくと、便の量は減りがちです。それまで母乳やミルクしか飲んでいなかった赤ちゃんですが、飲む量を減らしながら離乳食を始めます。母乳やミルクに比べれば、食事の中の水分量が減ってきますから、おなかにはいる水分量は減ることになります。そうなると便の量も減り気味になり、それまで1日に数回便が出ていたのが、1日に1回あるいはそれ以下になることになります。もし、好ききらいや食べむらがあるとなおさらです。
そもそも、便は食べたものから栄養分が消化吸収されたあとの残りものです。便のもとは、口から入った食べものや飲みものと、唾液や胃液、十二指腸からでてくる消化液です。食べものが小腸、大腸と運ばれていく間に、食べものの中にある栄養分は消化され、水分とともに腸に吸収されます。最終的に肛門から出てくる便は、消化吸収されずにのこったものが大部分なのです。
食べものには、消化吸収される栄養分や水分だけが含まれるのではありません。消化吸収できないものは食物せんいと呼ばれます。これは便のたいせつな材料です。食べ物に含まれる食物せんいが多いと、食物せんいは消化吸収されないので、のこる便の量が増えます。また、食物せんいには、水分を保つ力があるといわれています。つまり、食物せんいがたくさん含まれる食べ物を食べると、食物せんいは消化されないで便の中に残って便の量が多くなり、水分もたくさん含まれた便になるため、便はやわらかくなります。反対に、食物せんいの量が少ないと便の量は減り、硬くなりがちになるというわけです。
ただし、同じ量、同じ種類の食べ物を食べても、便の量は同じではありません。小腸や大腸での水分吸収の程度に違いがあるからです。たとえば、おなかをこわしたとき、ノロウィルスが感染した時は、ウイルスによる腸炎が起きて、腸が水分や栄養分を十分に吸収できなくなります。すると、消化液が大幅に増えて便の量が増え、水のような便が大量に出ます。便の量を決めるのは、原則、口から入る食べものの量とその中の食物せんいの量で、水分をたくさんとったり、おなかの調子が悪いと、便の量が増えるのです。
便秘とは、「便がとどこおった状態」ですから、排便の回数や便の量が減ること、すなわち「便がとどこおった状態」になるのです。もっと悪いことに、便は固くなり、硬い便を出すときに、「痛くていや~な」排便を経験することになります。したがって、お子さんが離乳食をはじめて、食事をだんだんとおとなの食事に近づけようとするときは要注意、便秘になりやすいと心得なければなりません。
便秘になりやすいもう一つの理由
離乳食を始めたころから便秘になりやすいのにはもう一つ理由があります。便の量が減って排便の回数が減り、便が固くなって硬い便を出すとき、お子さんは、「いた~い」ウンチを体験することになり、ウンチをガマンするからです。
このころ、こどもの認知機能や運動機能はどのようになっているのでしょうか。そんな、お子さんの「心」に注目して、便秘になりやすいもう一つの理由について考えてみました。
赤ちゃんの記憶は、まず「わかる」の記憶から発達するそうです。生後5-6か月になると身近にあるものが何であるかわかるようになります。でも、まだ思い出すことはできません。お母さんの顔はわかるのですが、ほかの人の顔と違うということは忘れてしまうのです。生後8-12か月ころになると、一つのできごとをより長い時間記憶できるようになります。以前に経験したことをひとまとまりのものとして、記憶にとどめておくことができるようになるのです。お母さんや家族の顔を覚えていて、抱っこしてくれた、ミルクをもらった、あやしてくれたということを覚えているのです。このころになると赤ちゃんは「人見知り」するようになります。見知らぬ人の顔を見て、知っている人の顔を思い出し、見知らぬ人の顔と比べてちがいを見つけ、不安を感じて泣き出すのです。
一方、排便は毎日、毎晩、繰り返されるからだの働きです。母乳やミルクを飲んだり、母親などの家族の顔を見たり、名前を呼ばれるのを聞いたり、だかれたりおんぶされたりといった日々のできごとと同じように経験しています。「人見知り」ができるようになった赤ちゃんは、きっと、日々くり返される「ウンチ」についても、感じていて、記憶が積み重ねられているに違いありません。離乳食が始まり、好ききらいや食べむらが始まるのは、これ以降です。そして、1歳半を過ぎると、じつは、こどもはおしりの筋肉をしめることができるようになるのです。「いた~い」ウンチを体験すると、こんどの排便をがまんしようと思うのです。その結果、便の回数が減るだけでなく、便はますます硬くなり、出にくくなるのです。そして、「便秘の悪循環」をきたすことになるのです。