こどもの慢性便秘症 危険信号(red flags)を見逃すな!
便秘で苦しむこどもたちが増えているといわれます。①排便回数が1週間に2回以下、②多量の便がたまる、③痛みを伴う排便あるいは排便困難、④トイレが詰まるほどの排便、⑤いったんトイレで排便できるようになった後に便を漏らすようになった、といった便秘症状が少なくとも2つ、1か月以上続くときには慢性便秘症と診断します。
危険信号(red flags)を見逃すな
こどもの便秘の診療にあたっては、まず、生まれつきの病気やかくれた病気を見のさないようにすることが大切です。このような病気があるかもしれない症状は次のようなものです。
生まれてすぐ24時間以内に便が排泄されなかったとき
体重が減ったり、ふえないといったことがあるとき
嘔吐を繰り返すとき
便に血が混じるとき
おなかが張っているとき
おなかにしこりがふれるとき
肛門の形や位置に異常があるとき
おしりの診察で異常を認めたとき
背中からおしりにかけての皮膚の異常を認めたとき
以上は、危険信号(red flags)です。思い当れば、すぐに専門医の診療を受けましょう。
慢性便秘症になるきっかけ
それまでは排便で困ったことがなかったのに、ある時期から便秘がちになり、だんだんひどくなったということがよく聞かれます。離乳食の開始、食事内容の変化や好ききらい、不適切なトイレトレーニング、入園や小学校入学、引っ越しといったことが慢性便秘症のきっかけとなります。
排便のしくみ
どうして便秘になるかを理解するには、排便のしくみを知りましょう。生まれたばかりの赤ちゃんでも、お母さんのおなかの中で排便のしくみが整い、教えられなくてもお乳を飲んで便を出すことができます。腸管の自律神経が働くからです。自律神経とは、一言でいうと、意図的に働かそうと思わなくても働く神経です。のみ込まれた食べもの飲みものは、自律神経の力で消化液とまざりながら大腸まで運ばれ、その間に消化吸収されます。残ったものが便として大腸の最後の部分、直腸にたまります。排便を促す腸の動きで直腸の圧が高まり、肛門が開くと、便は肛門から排出されます。赤ちゃんのころは、肛門が反射的に開いて排便するということを繰り返していますが、成長するにつれ、おとなと同じように意図的に肛門を閉じ、がまんできるようになります。たまった便を出そうとする自律神経の働きは同じですが、よりかしこい脳の働きで排便をコントロールできるようになり、さらに成長するとトイレで排便することを覚え、オムツが外せるようになります。
便秘の悪循環と便失禁・遺糞(いふん)症
ところが、お子さんが成長して意図的に排便をがまんできるようになってから、痛い、あるいはいやな排便を経験すると、慢性便秘に陥りやすくなります。こどもたちが慢性便秘になるきっかけはさまざまですが、硬い便が「諸悪の根源」です。便が硬くなる理由には様々なものがあります。離乳食の開始や好き嫌い、食べむらがあって食べる量が減って便の量が少なくなると、腸のなかに便がとどまる時間が増えて水分が吸収され硬くなります。トイレトレーニングや引っ越し、幼稚園などへの通園といった排便環境が変わると排便が嫌で、がまんすると便がたまり硬くなります。
硬い便が貯まって排便しようとすると、痛みを生じます。切れて血が出ることがあるかもしれません。切れたあとの排便はもっと痛いでしょう。このような痛みのある排便を経験したこどもたちは、排便は嫌なことと感じます。排便は痛みを伴うのでしたくない、何とか避けたいと思い、排便をがまんします。腸の運動はがまんしているとおさまりますが、便はさらにたまり、水分も吸収されて、より硬い大きな便になります。硬い便→便貯留→痛み・出血→がまん→硬い便という悪循環が生じ、慢性便秘状態になるのです。
つまり、自律神経の働きで便が出そうになっても意図的に肛門を閉じて排便をがまんし、そのため便は直腸にたまり続け、さらに硬く大きくなってますます排便困難になる、悪循環に陥るのです。ついには、大きな便のかたまりは出ず、かたまりのために開きっぱなしになった肛門からゆるい便がもれ、いつもおしりに便がついている便失禁の状態になります。まわりににおいがして、ウンチくさ~い遺糞症の子になってしまいます。