こどものすばらしい食事能力

 こどもに自分の好きなものを好きなだけ食べさせたらどうなるか、という疑問にこたえる古典的な実験があります。1926年、ニューヨークの病院の医師クララ・デービスは、6か月から11か月の赤ちゃんを集め、食べものをならべて、好きな食べものを好きなだけ食べさせるという実験を行いました。そろえたものは、当時の離乳食34種類。肉、魚、野菜、果物、ミルクや卵、オートミールや小麦といった、成長に必要なもので、つぶしたり、粉々にしたり、ミンチにしたものです。集められたこどもの中には栄養失調の子やビタミンDの不足による骨の病気、クル病になっている子もいました。こどもたちは、34種類の食べものの前に座り、こどもが食べものを指さしたりしてほしいしぐさをしたら、付きそいの大人がその食べものをスプーンですくって口に運び、口を開けたらに口の中に入れる、そんなやり方で食事させたのです。

 こどもたちは、最初は口に入れては吐き出すといった食べ方をしていましたが、そのうちどの食べものがどのような味かわかるようになり、自分の欲しいものを指さしては食べるという食べ方を身につけるようになりました。こどもたちの食べっぷりは、まったく気まぐれで、こどもによってもバラバラ。ある子は卵を1日7個も食べたり、バナナを4本も食べたりという子もいたといいます。

 そのような食事を数か月間続けたその結果は、2年後に論文で発表されました。驚いたことに、どの子も、気まぐれに、好きなものだけ食べていたというのに、健康にすくすくと育っていたのです。ビタミンD 不足のクル病の子も、ビタミンD が豊富に含まれる強いにおいのする肝油(タラの肝臓からとったもの)にも喜んで手をつけ、すっかり良くなっていました。

 実は、当時のこどもの食事の進め方については、「毎日決まったメニューで決まった量を口に運んで食べさせる」というのが一般の育児のやりかたでした。しかし、この実験が示したことは、こどもたちに健康的でバランスの良い食べものを提供しさえすれば、こどもたちは自分のからだが必要とするものがわかり、自分で選んで食べる能力を持っているという、驚くべき、しかしすばらしいことでした。

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